ナノテク化粧品は安全か? 微粒子が皮膚から体内へ
オルター通信948号記事
ナノテク化粧品は安全か? 微粒子が皮膚から体内へ
消費者リポート 第1343号 2006年9月17日発行 より転載

上田昌文 市民科学研究室


商品化が始まったナノテクノロジー
 最近、「ナノ」 という名前のついた商品をよく耳にするようになりました。「ナノ」とはものの大きさの度合いを表す言い方のひとつで、「10億分の1」を意味します。人の髪の毛の太さが8万ナノメートルほどですから、ナノテクノロジーは、ウイルス(インフルエンザウイルスが約80ナノメートル)や分子や原子のサイズで物質を加工する超微細技術といえます。
 今まで使っていた粒子をナノサイズにすると、成分としては同じですが、その物理的・化学的な性質がいろいろと変化し、質量あたりの表面積が非常に大きくなって反応性が高くなります。
 ナノテクノロジーの応用が見込まれている領域は医療・医薬品や環境計測から食品加工までじつに幅広く、すでにタイヤなどのゴム製品、空気清浄機などの電気製品、水や汚れをはじく衣料品などで実用化されています。ナノテクノロジーは21世紀の技術革新の中核を担うとみなされていて、各国が巨額の資金を投じて国家プロジェクトを組み、企業や大学が激しい研究開発競争を繰り広げています。

ナノ化粧品にはどんなものがあるのか
 現在もっとも一般に普及しているナノ製品が化粧品です。企業によっては、「ナノ」の言葉を商品名に使うところもあれば(コーセー)、使わないところ(資生堂など)もありますが、「高いUVカット効果」「高い透明度」 といった宣伝文句があれば、たいていナノ化粧品であると考えられます。その種類は大別すると表(右【表】参照)のようになります。
 ここでは、人体への影響の点で今一番問題視されている酸化チタン、酸化亜鉛を用いた商品をとりあげてみます。
 化粧品が塗布されるのは皮膚ですが、皮膚は人体最大の臓器(大きさは畳約1畳分、厚さ1.5〜4mm、重さ約3kg)です。体温調節、触感・温感・痛みなどのセンサー、そして主に角質層によって水分を保持し、有害物質やウイルス・バクテリアへのバリアになるといった重要な役目を担います。免疫システムと精妙に関係していることも最近わかってきました。
 しかし皮膚がいかに優れたバリアであっても、皮膚自体を傷つけたり、皮膚から浸透して体内に取り込まれてダメージを与えたりする物質が数多くあるのは言うまでもありません。
 本来そうしたおそれのある物質は化粧品に用いるべきではないのですが、合成界面活性剤(洗浄作用や水と油をなじませる乳化作用のため)、保存料・酸化防止剤・防腐剤、着色料、紫外線吸収剤、溶剤(肌への浸透のため)などに、有害性の疑いの強い種々の物質が今もなお使用されています。
 では、酸化チタンや酸化亜鉛がナノサイズになることでもたらされるおそれのある新たな危険とは何でしょうか。

主に日焼け止めに配合 浸透性と高い反応性
 この二つの物質は主に日焼け止めに配合されます。例えば酸化チタンは白色顔料の成分として使われるものですが、それを可視光の波長より小さなナノサイズ(10〜30ナノメートル)にすると、受けた光を小さく分散し、反射の度合いが低下します。仕上がりが白っぽくならず、写真撮影でフラッシュを使っても白浮きが抑えられます。また酸化チタンは、高いエネルギーを持った紫外線を吸収して、自分自身は変化しないのですが、周りの他の物質の反応を促進するという性質があります。臭いの元や有害物質を分解したりする「光触媒」として利用されるのはこの性質ゆえですが、化粧品ではこの紫外線の吸収力が生かされるわけです。さらに、粒子のサイズが小さいために乳液のようなさらっとした塗り心地であることも特徴です。
 しかし、よいことばかりではありません。ひとつは、粒子があまりに小さいので、皮膚のバリアを通過して体内に取り込まれてしまうのではないか、そうなるとめぐりめぐって肺の毛細血管や脳に蓄積したりして病気を引き起こし、免疫細胞に取り込まれて細胞を異常にするのではないか、といったおそれが出てきたことです。もっとも、これまでの研究では酸化チタンが皮膚を通過したことを明確に示すものはなく、皮膚の表面と角質層にとどまるとされています。
一方、ナノサイズの酸化チタン自体に神経毒性があるらしいことが最近報告されています。
 合成界面活性剤が角質の表面張力を低下させ経皮吸収を促進させることはすでに知られていますが、酸化チタンがそれと一緒に用いられることで、どういう挙動を示すのか、はっきりしたことはわかっていないだけに気がかりです。
 また、酸化チタンは、紫外線を吸収すると同時に、回りに酸素があればそこから電子を奪って活性酸素という非常に反応性の高い物質に変化させてしまうのですが、こんなことが皮膚で起こると大変です。そこで酸化チタンの表面をシリカなどでコーティングして、有害な活性酸素(発がんとも関係が深い)の生成を抑えることが重要となります。しかし、このコーティング技術は必ずしもどのメーカーでも安定しているわけではないのです。

なぜ日本はナノの表示がされないのか?
 安全であるとの確証が得られていないのに、効果だけを売りに一気に広まっているナノ化粧品。ところがナノ粒子を吸入させる動物実験で、体内の器官にそれが取り込まれ悪影響を与えるかもしれないことを示す研究がいくつか出てきています。
 2006年5月17日、それを受けてグリーンピースや地球の友など八つの環境団体がナノ粒子を用いた日焼け止めの市場からの引き上げをアメリカの食品医薬品局に要求しましたが、じつは日本の化粧品にはナノテクノロジーが使われているかどうかの表示がありません。しかも成分になる前の原料の段階で何がどう加工されたかを消費者が知ることは大変困難です。
 私たちは、まず化粧品メーカーに「なぜナノの表示(成分や加工技術)をしないのですか? それを知るのは消費者の権利です」と突きつけていくところから始めなければならないでしょう。

※この報告は、市民科学研究室・ナノテクリスクプロジェクトの調査に基づいています。詳しい資料の入手を希望される方は市民科学研究室(TEL 03-3816-0574)までお問い合わせください。



【表】 ナノ化粧品の例

■有機成分(美容成分)のナノサイズ化、ナノ加工など・・・美容液など
◇高圧乳化技術(化粧品の成分粒子を30〜100nmの大きさに加工)…ナノテクを謳う美容液の多くがこのタイプ
◇ナノカプセル(リン脂質などで作られた超微粒子のカプセルに有効成分を配合)・・・例)コーセー「ルティーナ ナノホワイト」、ホソカワミクロン「ナノクリスフェ」

■無機成分のナノサイズ化 ナノ加工など・・・日焼け止め、ファンデーションなど
◇ナノサイズ粒子(例えば酸化チタンや酸化亜鉛を用いた日焼け止め)・・・例)コーセー「ナノウェア」、花王「ソフイーナ ライズUVカットミルク」、カネボウ「アリィーEXカット」、資生堂「アネッサ ネオサンスクーンEX」
◇混合の困難な材料のナノレベルでの組み合わせ・・・例)コーセー「ルティーナ ライトオンパクトSF」
◇粒子の表面加工、コーティング・・・例)資生堂「プラウディア クリアクオリティーパクトUV」
◇その他・・・例)ビタミンC60バイオリサーチ社が開発した高純度フラーレン(美白効果など)

■その他
◇ナノサイズクレンジング・・・例)ファンケル「マイルドクレンジングオイル」




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